植物と言うと、種から芽を出して、根と茎を伸ばして葉をたくさんつけながら成長し、やがて花を咲かせて再び次の世代の種ができる…というイメージがありますよね。
しかし、実はすべての植物が種子をつくるわけではありません。
それどころか、種子をつくる植物は比較的最近進化して登場したもので、それ以前には種子を作らない植物の世界が広がっていました。
今回は、種子をつくらない植物はどのようなものか見ていきましょう。
海から進化してきた植物
「生物の祖先は海で生まれ、海で進化した」
こんな話を、どこかで聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
植物も例外ではなく、進化が進むにつれて陸上に出てきました。
そのため、植物の進化の方向は海の中から陸上で生活できるように適応するように進化した、と考えると理解しやすくなります。
最近進化してきた新しい種類の植物ほど、海から離れた乾燥した環境で生きていけるような仕組みになっているのです。
実は、種子も海から陸上の環境に適応してできた仕組みなのです。
種子は陸上の環境に強い
種子の大きな利点のひとつは乾燥に強いことです。
ふつう生物のからだは乾燥すると死んでしまいますが、種子は硬い殻でその中身を乾燥から守ることができます。
また、種は土にまいて水をやり、決まった季節にならないと目が出ませんよね。
種は周囲の水分や気温が、育つのに適した環境になるのを感じ取ってから芽を出します。
周囲に常に水があり、気温の変化が少ない海の中と違って、陸上は場所や時期によって気温や降水量などが大きく異なります。
そのため、芽を出す環境によっては生き残れない可能性が高いのです。
良い環境を選んで芽を出し、それまでの長い間眠っていられる種子の戦略は、陸上で生き残るために重要な仕組みと言えます。
種子をつくる植物は最近進化してきた
種子を使って子孫をのこす植物のことを種子植物と言います。
陸上の環境に強い種子をもつ種子植物は、植物の陸上進出とともに進化してきました。
以前解説した裸子植物と被子植物がこれに含まれます。現在の身の回りにある木や草花の多くは種子植物ですよね。
しかし、種子植物が広がり、大きな森林などをつくるようになったのは、恐竜の時代になってからのことです。
それ以前は、種子を作らない植物の森林が発達していました。
種子をつくらない植物はどうやって子孫を残す?
それでは、種子をつくらない植物はどうやって子孫をのこすのでしょうか。
種子をつくらない植物は、種子の代わりに胞子という粒を作って増えます。
胞子は湿った場所でしか成熟できないという弱点があり、それを克服した仕組みが種子という事です。
種子をつくらない植物の分類
種子をつくらない植物には、進化的に古いものから順に次の3種類があります。
- 藻類
- シダ植物
- コケ植物
それぞれ特徴を見ていきましょう。
①藻類
藻類は、海などの水の中にいる植物や植物プランクトンです。
大きなものは海藻のようなもの、と言うとわかりやすいでしょう。ワカメや海苔なども植物なんですね。
植物プランクトンはミカヅキモなど、葉緑体をもち、光合成をする微生物です。
ワカメや植物プランクトンなどと種子植物を見比べると、まず、からだのどこが茎でどこが葉なのか、また根なのか、はっきり分からないことに気づくでしょう。
藻類には、根、茎、葉の区別がありません。
例えば、種子植物では根が土の中の水分を吸収する役割を果たしますが、体の周辺を水で囲まれている藻類は、全身から水分を吸収します。
また、そのため吸収した水などを運ぶ必要がなく、維管束もありません。
②コケ植物
最初に陸上に出てきた植物のグループがコケ植物です。
背が低く、岩や地面に張り付いているようなものというイメージがありますが、体が上に伸びているタイプのものもあります。
陸上進出してすぐの形が残っているため、日光や乾燥には弱く、主に日陰の湿ったところに生えます。
また、根のように見える部分がありますが、これは実は根ではありません。
植物の根の機能には①体を地面に固定する、②土の中の水分や水に溶けた養分を吸収する の二つがありますが、コケ植物の根のように見える部分はこのうち①の機能しか持ちません。
植物の根について、詳しくはこちらの記事で解説しています↓
コケ植物の根のように見える構造を、仮根といいます。コケ植物にも、まだ根・茎・葉の区別がないのです。
それでは、コケ植物はどうやって水分を吸収するのでしょうか。
実はコケ植物は、全身の体の表面から水を取り入れます。この構造を考えても、湿ったところでしか生きていけなさそうですね。
また、全身から水分を吸収するため、維管束もありません。
③シダ植物
コケ植物からさらに陸上に適応するよう進化して出てきたのがシダ植物です。
シダ植物もまだ水分が必要な胞子を使ってふえるので、基本的に日陰や湿った場所に生えますが、ワラビのように日当たりのいいところに生えるシダ植物もいます。
コケ植物と比べると、シダ植物は劇的に乾燥に強くなっているのです。
その乾燥への耐性をもたらしたのが、おなじみの維管束です。
コケ植物のように全身から水分を吸収するスタイルではなく、土の中の水分を吸収し、維管束で全身に運ぶ方法を進化させたことで、空気がそれほど湿っていなくても生きていけるようになりました。
土の中の水分を吸収する、ということは、「本物」の根も持っています。それと同時に茎や葉の区別も出てきました。
シダ植物の葉を見てみると、裏側に丸状や紐状の茶色っぽい構造がびっしりと張り付いていることがあります。これは胞子のうというつくりが集まったものです。
その名の通り、中には胞子が入っていて、成熟すると弾けて胞子を飛ばします。この胞子がしめりけのあるところに落ちると、発芽することができます。
まとめ
・植物はもともと海の中にいて、徐々に陸上で生きていきやすいように進化した。
・種子で増える植物のことを種子植物という。
・種子をつくらない植物は胞子でふえる。
・藻類は水の中で生活し、根・茎・葉の区別や維管束をもたない。
・コケ植物は日陰の湿ったところに生え、根・茎・葉の区別や維管束をもたない。
・コケ植物の体を地面に固定する役割をもつ根のような構造を仮根という。
・シダ植物は日陰や湿ったところに生え、根・茎・葉の区別と維管束をもつ。
・シダ植物の葉の裏にある、胞子の入った袋を胞子のうという。
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